カードショップにおけるシングル扱いの意味
ちょっと唐突ですが、今回は商売についてのお話を書いてみたいと思います。
お店とは、たとえ同じものを売っていたとしても、まったく違う客層を意識していたり、まったく違うサービスで、お客様に満足して頂こうとしているものだ、というお話です。
お店というものは、物をそろえるだけでなく、様々な“サービス”で他店との差別化を図っています。
○百貨店
なんでも揃う。品揃えが良くて、色々な物の中から選べる。また、その商品に対しての知識を持つ店員がいる。商品の品質も良い。
○特売店
安い。とにかく価格で勝負。
○コンビニ
好きな時に買い物できる。家の近くにあり、狭い店内を一通り回るだけで、ほぼなんでも手に入る。
○ドンキホーテ
ワザと猥雑に作られた店内で、宝探しの感覚で買い物を楽しめる。
この4つを例にまとめると、「お客さまが得る事のできるサービス」は、こうなります。
○百貨店
選択性(同じ商品の中から好きなモノを選べる)
知識(専門知識を持った店員から)
安心(品質の良さから)
○特売店
安さ(純粋に価格の低さから)
○コンビニ
時間(近場にある。いつでも開いている。買い物が早くできる)
○ドンキホーテ
楽しさ(エンターティメントに特化した売り場から)
いうまでもなく、上の4つの売り方の、どれが上、どれが下、という考え方はありません。
安さが一番、と考える人は特売店に行けば良く、忙しくて時間が惜しい人はコンビニにいけば良いでしょう。
商品について店員から説明を受けながら、ゆっくりと買うものを吟味したいならば百貨店へ。
仕事帰りにストレス発散で買い物を楽しみたい。また、自分だけのお買い得商品を見つけてみたいならば、ドンキホーテ。
どの店で買い物するか。これらはすべて、お客さまが選ぶことです。
商売とは、「こういうサービスが欲しい」とお客さまが考えている事(ニーズと言う)をつかんで、それに答える事です。
(あるいは、お客様が考えていなくても、こちらから新しいサービスを提案するのが“価値の創出”であり、より価値のあるアプローチです)
「物を売る」のが商売ではありません。ニーズをつかみ、あるいは作り出し、それに答えるのが商売です。
例えば、特売店は「安く物を買いたい」というニーズに答えています。
その分、商品を探す手間、わざわざ買いに行っても売り切れている場合のリスクがあります。逆に言えば客は、“時間”というコストを払って、“お金”にしていると言えるでしょう。
コンビニなどは逆に、「商品を定価で買うかわりに時間を節約している」と言えます。無意識、認識しているにかかわらず、顧客はどちらかを自分で選んでいます。
よって、コンビニで買い物する時に、「定価販売ではなく安くしろ」という人はいません。
(余談ですが、最近都心部で増えている“99円ショップ”は、コンビニの利便性と特売店の安さを両立したものと言えるかもしれません。しかし、集客力の問題から、地方に出店できるかどうかは不透明ですね)
ドンキホーテという店については、“価値の創出”について色々と考えさせられました。
店内に踊り狂うコーナーポップ、楽しげなテーマソング、バラエティ豊かな売り場。買い物そのものをエンターティメントとして演出する事で、実は単なる「買い物」以上の価値を作り出しています。
とても新しい業態だと個人的には考えていますが、語りだすと止まらないのでこのへんで。
さて、ここまでのお話でご理解していただきたいのは、お店には色々な“サービス”のアプローチがあり、そのどれもが正しく、どれを選ぶかは全てお客さまの自由だ、という事です。
この話をカードゲーショップに置き換えてみましょう。
シングルカードを扱う意味は、実は店によって考え方が違います。
(なお、「シングルカード販売」とは、中身の分からないパック形式の販売ではなく、1枚1枚好きなカードを選んで買ってもらえるようになる販売形式のことです)
1・ただ単に、品揃えの一つとしてシングルを置いておく、という理由。
2・「シングルカードのある店」という事で、集客力が上がるから、という理由。
3・ゲームを楽しんでもらうためには、デッキを自由に作れる環境にしておく必要がある。そのためにシングルを集めておく、という理由。
1の理由で置いているのは、専門店ではないところが多いでしょう。
よって価格の設定もいい加減で、変に高かったり、ものすごく強いカードもお店の人が知らないと変に安かったりします。
よって、「強いカードを知っている」人が、先に強いカードを買ってしまうため、本当に必要なカードは運が良くないと手に入らない店になってしまいます。
これは別に悪い事ではなく、その店にとってシングルカード販売が、「本当の仕事」ではないからです。
要するに、「カードゲームの専門店」ではない、という事ですから、そもそも「正しい価格」「品揃え」「知識」を求める事は期待できないという事ですね。
逆に言えば、「知識を持っているお客さま」にしてみれば、新製品発売時などに簡単に強いカードを集める事のできる、「良いお店」になるでしょう。
2の理由でシングルを置いている店から、きちんとシングルを管理し始めます。
またこういったお店はありがたい事に、「お客を集める事」のためにシングルを扱っていますから、「シングルで儲けよう」とはあまり考えていません。
もちろん儲けを出すためにシングルを扱っているわけですから差益が出るようには価格設定していますが、ここのバランスが1と違うところで、
「利益が少なくても、他店から客を引っ張ってくる武器としてシングルを安く売る」
という考え方も含まれており、目立ってシングル価格が安くなる事もしばしばです。
ただし、そういった「目立って売れるカード」は、1の店ほどではないにしろ、当然すぐに売り切れます。
ですが、お店としては「その店で安く売っていた」という事実が宣伝効果として残るため、実売以上の利益が出ていると言えるでしょう。
すぐ売り切れる。運が良くないと安く手に入らない。すなわち、毎日その店に行かないといけないことになりますが、「とにかく安く買いたい」という価値観のお客さまにとっては、その店がその人にとってナンバー・ワンの店と言えます。
とにもかくにも「安い」事は、時間の余っている人にとっては最高のサービスです。「安さ」はいつの時代も支持される、普遍的な価値観ですから。
お客さまにすれば、時間というコストを消費してお金にしているわけで、コンビニではなく特売店を選んでいる、と言えるでしょう。
3の店は、「ゲームを楽しみたい」「好きなようにデッキを組みたい」というニーズに答えています。
カードゲームをより楽しんでもらおうという、「カードゲームそのものの価値を啓蒙したい」という専門店は、こういった売り場を目指します。
お店はできうる限りすべてのシングルカードを揃えて、また、動きの良い人気のカードをチェックして「売り切れないように価格調整」します。
お客さまが、欲しい時に欲しいカードが手に入るように用意するためには、できるだけ売り切れを少なくする必要があるためです。
お店は、お客さまが求めるカードをすぐに見つけて買えるよう、展示法も工夫します。
そして、「売り切れないように調整」するために、価格も決して安すぎるものには出来なくなっていきます。客引きのためにシングルを扱うのではなく、「デッキを作ってゲームを楽しむ環境」を用意するためのシングル販売ですから、当然と言えるでしょう。
多少のお金は使ってでも、商品が選べる“選択性”、ほぼ間違いなく欲しいカードが手に入る“安心”、探さなくてもすぐカードが見つかる“時間”などの利便性を求めるお客さまにとっては、便利で頼りになるお店、という事になるでしょう。
これらはすべて、正しい、正しくないではなく、店によってお客様に提供するサービスの方向性が違う、という巌然たる事実であって、選ぶのはあくまでお客さまです。
例えば、ディメンション・ゼロで、“団結”のデッキを組みたい!と思ったとします。
(ある特定のコモンのユニット1種類をデッキの半分近く、約20枚使う、特殊なデッキのことです)
コモンカードを1枚20円で売っているような、1や2のような安い店を何件も何件も回れば、15枚ほど買ってもたったの300円! ものすごく安くデッキを完成させる事が出来るでしょう。
ただし、交通費がかかるかもしれませんし、すごい時間と労力を消費しますし、なにより行っても欲しいカードを売っている保障はありません。
3の店でもさすがに「絶対に15枚買える」という保障はありませんが、お店がちゃんと選り分けて用意していますから他よりは確実です。ただし、団結カードの人気が高まっていれば、「売り切れないよう」高くなっているでしょう。
多少のお金より、時間と労力を大切にしたい人にとっては便利です。
テレビゲーム専門店も、コミック専門店も外食産業も、パッと見にはわからなくてもこうしたサービスの差別化の中で淘汰され、より多くのお客さまに支持された業態が生き残ってきました。
そろそろ、カードゲーム専門店も、サービスのバリエーションが増えてきて然るべきだと思います。
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