トップカードゲーム戦記メルヘヴンはどういう商材になるのか


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ライトユーザーの求めるカードゲームとは?
「メルヘヴン ザ・アームバトル カードゲーム」はどういう商材になるのか


 4月末、メルへブンカードゲーム、“メルヘヴン・ザ・アームバトル”発売。どのくらい力を入れるべきか、悩む我々。
 (株)コナミさんは、かなり大きな期待をかけているらしく、結構なプロモーションをかけているようなのですが。
 なにしろ“メル”って原作は、連載前からアニメ&ゲーム化が前提とされていて、各メーカーによるスポンサー権争奪戦があったそうで。
 「人気が出てから商品化を考える」のではなく、「最初から商品化を見込まれていた作品」なのだそうです。

いけっち店長「メルねぇ・・・オレも週刊サンデーは毎週読んでるが、面白いと思ったことは無いなぁ。なんせ、異世界勇者モノって言うと、“ドラゴンクエスト・ダイの大冒険”とか、“ハーメルンのバイオリン弾き”っていう名作が頭にあるからなぁ」

しまむー  「でも今の子供たちは知らないでしょ? メルで充分、面白いんじゃないですか?」

いけっち店長「いや、それが、子供たちに訊いても誰もメルを知らないんだよ。これはもう、アニメの出来によるんじゃないか。面白ければ、流行る」

 とりあえず、マンガを全巻買ってきて、カードキングダム練馬春日に設置し、子供達に読んでもらう。ついでに、オレも通して読んでみる。

 結果。

いけっち店長「キャラクターの“バッポ”がいいね。でもなんか、人工的な手堅くまとまったマンガみたい」

しまむー  「社長なら、エロいキャラクターに目が行くと思いましたが…」

いけっち店長「むろん、それもある。が、まぁ、商品用としては悪い原作ではないな。計算されて作られたよ〜な感じ。オレの心には何も残らないが」

しまむー  「子供たちの反応はどうですか?」

いけっち店長「…特徴的だぞ。何を示唆しているのか、一発でわかる」

しまむー  「どういう事です?」

いけっち店長「読み終えた子供に、『面白かったか?』と聞くと、ほぼみんな間違いなく、『面白かった!』と言う。
 だが、『どんなシーンが?』とか、『どのキャラクターが好き? 理由は?』とか訊いても、答えが返ってこない。同じように“ドラゴンボール”や“ガッシュ”を読んだ時には、目を輝かせて感動したシーンや、好きなキャラクターについて語る子供たちが、だ」

しまむー「それはつまり…すごく読みやすいけど、何も心に残らない、という事なのでは…」

いけっち店長「しっ! 声が大きい!」



 さて。今、業界内では、色々な意味で、最も話題にされている新製品、“メルヘヴン・ザ・アームバトル”。
 果たしてこれは、今後どのように動いていく商材なのでしょうか?

 遊戯王、デュエルマスターズの2本柱だけでは、子供用カードゲーム市場が物足りない昨今。我々は、新たな、お勧めできる良質なカードゲームを切望しています。


 今までに発売されたカードゲームは一通り、期待をこめて研究してみたのですが、なかなかに“デュエルマスターズ”“遊戯王”に匹敵する完成度のゲームは出てきません。(具体的にこれら2つがどう優れているかは、今までの記事をご覧下さい)

 “ガッシュTCG”は、当店では一度もお勧めしたことはなく、“ドラゴンボールカードゲーム”も研究の結果、「ゲームとして問題山積」として研究所にてご報告してまいりました。

 “鋼の錬金術師アルケミックカードバトル”は、個性的なゲームシステムと、ゲームとしての駆け引きの面白さがあったため、それに至るためのデッキ構築理論をお伝えいたしましたが、アニメの終了と共にユーザー数が激減し、研究を続ける事が不可能となったため、現在では研究を中止しています。
(映画で盛り上がれば良いのですが…テレビ放映が決定したあたりから発売されていれば、もっともっとプレイヤーの多いカードゲームになっていた事でしょう。一番悔しい思いをしているのは、ゲームデザイナーさんではないでしょうか)

 “ナルト”は面白い、と聞いていたのですが、どうも“ガンダムウォー”以上に“事故”が起こりやすいゲームシステムの上、これまた“ガンダムウォー”以上に一方的なゲーム展開になりがちなように思いました。
 単純に、僕の好みでは無いというだけかも知れません。


 そんな状況で、遊戯王のコナミが、久々に本腰を入れてプロモーションしてきた“メルヘヴン・ザ・アームバトル”。
 営業の方のお話を聞く限り面白そうだし、あの、ハズレをあまり生み出さないコナミのカードゲームなら(コナミには熱狂的な固定ファンが付くカードゲームが多いのです。“ベルセルク”“テニスの王子様”等々)、僕も大いに乗り気になりました。
 「新しい、子供用のお勧めできるカードゲームが欲しい!」と思っていた僕にとって、メルが面白いゲームであって欲しい、という期待は、祈りにも近いものでした。

 勢い余って、カードキングダム練馬春日店入り口に、こんな凝った売り場を作ってしまったほどです。


 売り場の演出が功を制したのか、子供たちが新しいゲームを心待ちにしていたのか、発売日に仕入れたブースターボックスは完売!
 きゅうきょ追加で仕入れたもブースターもあっという間に完売!
 スターターも何十個と、飛ぶように売れていきました。(売り切れが無ければ、もっと売れてました)



 僕もすぐにルールを覚え、他の仕事もそっちのけで研究開始です。
 デッキを何パターンか作り、修正を繰り返し、何度も対戦して、研究を煮詰めていきました。

 そして…。

 残念ですが…僕にとってはこのゲーム、今のところ楽しめない物である、との結論に達してしまいました(おっと。だから売れないとは言いません。それは後ほど)。

 一言で言うと、「ゲーム」と言うより「作業」なのです。
 「相手の行動に対し、自分の手札の中から有効な物を選んで、戦術を変化させていく」のではなく、「これしかできないから、こうする」という作業の、繰り返しなのです。
 それが、手札の引きが悪いとか、手札が少ないからという原因でなく、手札を十分持っていても、やる事が選べない。と言うより、決まりきっている、のですから根が深い。

 どんなゲームなのか、という説明は別ページにまとめました。いくつかの細かい説明をすっ飛ばしますが、ある程度カードゲームをご存知の方なら、論旨は伝わる事と思います。出来れば後でお読み下さい。


 ⇒「“メルヘヴン ザ・アームバトル カードゲーム”解説」


 このゲームを…いや、カードデッキを回していると、キャラクターを決められたパターン通りに動かす“歯車”になったような気がするのは、僕だけでしょうか。
 数値的バランスが“地味な方向に”とれているため、余計に「これしかない」という答えが見えてしまい、豪快さの足りない、地味な作業となってしまいます。

 子供用カードゲーム、という事で、プレイに選択の余地の無い、「誰がやっても同じプレイングになるゲーム」としてデザインされたのでしょうか?
 だとすれば、それはひとつの考え方かもしれません。正しいかどうかはさておき、歯車になるのが楽しい人達もいるでしょう。
 ですが、僕は楽しめません。これは、大人だから、子供だから、というのとは関係なく、好みの問題なのかも知れません。

 そんなわけで…僕は、子供たちの情操教育、論理的な思考能力の発達のため、カードゲームは非常に優れた物と考えていますが、今のところ“メルヘヴン・ザ・アームバトル”が、コミュニケーションツールとして優れたゲームである、とは言えないと思います。



 しかし、我々はカードゲーム専門店を営んでいます。
 「カードゲームは教育に良いもの。だから我々が良いと思ったものだけ売る!」というのは、傲慢でしかないと思います。


 誤解を恐れずに言うと、面白くないからと言って、“メルヘヴン・ザ・アームバトル”が、商品としてダメだ、という事は、一切ありません!

 事実、僕にはどうしても面白いと思えない“金色のガッシュベル・ザ・カードバトル”が、今では人気が低下したとは言え、一時期は売れていたのですし、いまだにある程度の数は売れ続けています。
 これは、カードゲーム専門店、という狭い視野だけで見ていてはなかなか気付かない事なのですが、このようなカードゲームを買って下さる顧客層は、
「面白いカードゲームだから買っている」
のでは無く、
「好きなキャラクターのカードで、デッキを一つ持っていて、友達と1日1回か、せいぜい3回ぐらい対戦できれば良い」
という、いわゆるライトユーザーのようなのです。
 何十回もデュエルしたくなるほど面白い物である必要など無く、最低限、ゲームとして対戦できる程度の物で満足できるらしいのです。


 しかし、原作人気さえあれば良いという物でもなく、たとえば“ワンピース”は、あれだけの原作人気、アニメ人気がありながら、カードゲームは全くと言っていいほど売れませんでした。

 「カードゲームに向かない素材であった」という言い訳じみた思考停止意見を、よく聞きます。
 “ワンピース”のカードゲームの失敗は、あれだけキャラクターの数があり、人気のあるものを、ただ単に活かしきれなかっただけ、なのではないか、と僕は思っています。
 簡単に言って、「やってみよう!」「続けたい!」と思わせる、魅力のあるカードゲームにできなかった事、それが最大の原因だったのではないでしょうか?


 逆に、ガッシュはなぜ売れたのでしょう?

 よく言われている事ですが、“ガッシュ”は、まずスターターに、“魔本”という「なりきりアイテム」をつけることで、ごっこ遊びのツールとして売り出したことが、スタートダッシュの成功につながったと考えられています。

 そう。アニメやマンガの“遊戯王”“デュエルマスターズ”をきっかけにカードゲームを始めた子供たちにとって、カードゲームとは思考ゲーム的な要素よりも「ごっこ遊び」的な面白さを与えてくれる物、という認識があったのだと思います。

 “マジック:ザ・ギャザリング”からカードゲームに入った人にとってはなかなか理解しにくいことなのですが、いうなれば、昔コンピューターゲームにシミュレーションかテキストアドベンチャーゲームしか存在しなかったころの、「コンピューターゲームの面白さとは、じっくり考える事だ」と考える人(それしか無かったのだから、当たり前ですが)と、ファミコン世代で、アクションゲームから入った人の、認識の違いのような物ではないでしょうか。


 話を“メルヘヴン”に戻すと、スターターに“リング”を付けている点や、レアリティの設定など、徹底的に“ガッシュ”という商品を研究し、いわば同じ売り方を狙っているように見受けられます。
 よって、ターゲット層としては、“ガッシュ”と全く同じ(連載も同じサンデーですし)。
 売れ行きとして“ガッシュ”を超えるには、原作人気の盛り上がりしか考えられないと思います。
 この層の顧客層は、ゲームの面白さは最低限マトモに遊べるレベルをキープさえしていれば良く、はっきり言えば、「みんながやってるから僕もやる」という動機が最大の購買動機と考えられるからです。

 と、するならば…
 はたして、“メル”は、“ガッシュ”ほどの人気を持ちうるのでしょうか…?
 あの作品が、心に残る、面白いマンガ&アニメである、と感じるかどうか。
 それがすべての答えと言えるようです。



  さて、話は変わって、誤解のございませんよう書いておきますが、
「キャラクターカードゲームを買うのは、中心はライトユーザーだから、ゲームが面白くなくて良い」
とは僕は言いません。面白くない必要など、どこにもありません。

 僕の理想は、あくまでも、
「キャラクターファンに手にとって貰えて、なおかつ、そうして始めた人にカードゲームの奥深い楽しさを知ってもらえるもの」
です。

 ガッシュがそうであれば、果たしていったいどれだけのプレイヤーがいた事か?
 つまり、業界的には「よく売れた」と言われているガッシュですら、僕から見れば「本当なら、もっともっと売れた!」という事なのです。
 小さな成功を喜ぶのではなく、大きな可能性が達成できなかった損失に気付いてほしい、というのが偽らざる気持ちです。


 しかしながら、僕の価値観と違う、別の価値観でカードゲームをお買い求めの方も、もちろんいるでしょう。そういった方のために、商品を取り揃え、商品に対する知識を深めておくのは、専門店の義務と考えます。

「メルはどうやって遊ぶゲームですか?」
「これこれこうやって遊びます」
「強いデッキの組み方は?」
「こういうのがお勧めですね」
と、お答えできるようには、しておくべきだと思います。

 お客様が、求めた商品が置いてある。聞きたい知識が、手に入る。これが専門店に求められているものだと思います。

しかし、
「メルって面白いですか?」
と聞かれたときは、ウソは言えません。こう言いますね。
「僕は今のところ、楽しめるゲームではないと思いますね」

 事実、カードキングダムで、あれだけ売れたにも関わらず、プレイする姿はあっという間に見かけなくなりました。
 この夏には第2弾が発売されますが、早く相手のターンにもヒマになることのない、駆け引きの発生するゲームになって欲しいと、本当に思います。

 面白くなったときは、ちゃんとご報告させていただきますね。


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